コラム

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エンディングノート

 

 恥ずかしながら、司法書士の職業につくまで、「エンディングノート」の存在をしりませんでした。

 司法書士になって初めて「エンディングノート」(Ending Note)という言葉を聞いたとき、その響きが「デスノート」(Death Note)と似ていることから、非常にネガティブな印象を受けました。

 おそらく、多くの方が私と同じ印象をうけていらっしゃるのではないでしょうか?

 しかし、「エンディングノート」について調べてみると、そのイメージとは全く反対のものであり、それどころか、画期的で実に理にかなったものであることに非常に感心しました。

  

 職業柄「遺言書」と身近に接するのですが、「エンディングノート」はよく「遺言書」と並列して挙げられます。

 どちらも主に、死後の自分の財産の分配についてどうして欲しいかを、遺された人に伝える為に書くものですが、「遺言書」と「エンディングノート」との大きな違いは、「遺言書」は法律に定められた形式的要件に従って作成する事により、法的効力を生じ、「エンディングノート」は、自由な形式で書くことができるかわりに、法的効力が生じないというところです。

 ここまでを聞くと、法的効力がないエンディングノートを作成するのは無駄じゃないか?と思えますよね。 実際はそうでしょうか。

  

 例えば、ご自分が実際に「遺言書」を書く場面を想像してみて下さい。机に向かってすらすらと遺言書を書くご自分のお姿が目に浮かぶ方はいらっしゃいますか?

 机に向かって、一時間ほどの短時間でご自身の人生を振り返り一生分の様々な思いを旨に、ご自分の死後の財産の分配を簡潔に遺言書に書ける方はそういないと思います。

   

 そこで、「エンディングノート」の登場です。「エンディングノート」を直訳すると「最期の覚え書き」です。「ノート」は、飽くまで「覚え書き」と言う意味です。思い立ついたときに忘れないように覚え書きをノートに書き記すものです。

 しかも、形式的要件はないので、財産の分配のみならず、何でも自由に書く事ができます。

   

 例えば

  • ·     自分史
  • ·     保険や預貯金のリスト
  • ·     自分が亡き後の、ペットたちのこと
  • ·    葬儀や供養に対する要望
  • ·     介護が必要になったときのご要望
  • ·     延命治療や尊厳死に対するご意思
  • ·     ご家族・知人への感謝の思い
  • ·     交友関係や取引先など連絡先のリスト
    ・・・などです。

   

 「遺言書」は、主に財産の分配について記すもののみであるのに対して、「エンディングノート」は本人が人生を振り返りながら、最期の迎え方に対する意思や、遺される人々に対する「想い」を思い出しながら、年月をかけて少しずつ書き溜め、最後に「遺言書」の内容となる遺産の分配をどうすべきなのかを自ら導く役目を果たすものです。

   

 つまり「エンディングノート」は、「遺言書」の前置き・構想であり、そして「遺言書」は、「エンディングノート」の集大成です。 

 切羽詰まった状況(死を意識した状況)で「遺言書」を書こうとしても、なかなか筆がすすまないものです。

 日本人の「平均寿命」は男性79.59歳、女性86.44歳性ですが、介護を必要とせず自立して元気に過ごせる「健康寿命」は、男性70.42歳、女性73.62歳と言われています。

 ご自分の意思がはっきりしているうちに、「エンディングノート」を大いに活用して、あまり構えずに、家族に言っておきたいことから先に記していきましょう。

   

 徐々に覚え書きを増やしていく事で、最終的に「遺言書」に書くべき財産の分配も自然に導かれます。財産の分配を記す事も大事ですが、家族に対する自分の愛情を伝えることも大切ではないでしょうか?

 「エンディングノート」には法的効力はありませんが、「エンディングノート」を綴る過程で得るものは、残りの人生に大きな影響を及ぼす効力があると思うのです。

 

  

平成24年8月27日

相続安心サポートセンター 司法書士 酒井

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