A.在日韓国人の「相続」の問題については韓国民法が適用されます。相続の放棄や遺留分の放棄についても韓国民法の規定に従って考えることになります。
韓国民法上、相続分の生前放棄は認められていません。相続開始前に相続放棄を認めれば、親の権威や、家業を継いだ者の要望などに放棄が強制されて、むりやり相続分を放棄させるおそれがあるためです。この点は日本民法と同じです。
では、相談者が、長男にすべての財産を相続させる内容の遺言書を作成し、他の相続人たちに遺留分の放棄をさせるという方法はどうでしょうか。
遺留分とは、被相続人が有していた財産について、相続人の最低限の取り分として、一定の割合を保障する制度をいいます。
相談者が長男に全ての財産を相続させる内容の遺言を残したとしても、相続後に他の子供たちから遺留分の主張をされると、一定割合の財産は他の子供たちに帰属することになります。
そこで、日本の民法では、「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。」と規定し、家庭裁判所の許可を受けることを条件に遺留分の放棄を認めています。相談者は、他の子供たちには十分な資金援助をしているとのことですから、遺留分の放棄が本人の意志にもとづくものであれば、認められる可能性は高いと考えられます。
しかし、韓国民法では、この遺留分の生前放棄を認めた規定は存在しませんので、この方法を取ることは出来ません。
冒頭で述べたとおり、在日韓国人の「相続」の問題については原則として韓国民法が適用されます。しかし、韓国の国際私法は、日本に住所のある在日韓国人が、「相続準拠法として常居所地法である日本法を指定します」と遺言で明確に示した場合は、相続の準拠法を日本法にすることを認めています。これは、長年日本で生活してきた在日韓国人にとって、日本法で処理した方が生活感覚にあっていることもあるからです。
では、相談者が遺言で相続の準拠法を日本法に指定した場合に、日本民法が規定する遺留分の生前放棄の制度を使うことができるでしょうか。
この点について現在、裁判所の判断は、「遺言の効力は、遺言者の死亡により効力が発生するところ、遺言者の生前においては、いまだ遺言の効力は発生しておらず、よって、遺言者の将来の相続に関しては、韓国法が適用される。」として、遺言での日本民法の適用による遺留分の生前放棄を否定しています。
よって、相談者の生存中は、他の子供たちに相続分を放棄させることも、遺留分を放棄させることも出来ません。
ただし、遺言書は必ず残すことをお勧めいたします。
相続財産を後継者である長男に相続させること、またはその理由などを書き残すことで、遺言者の最後の意思を表明したものですから、尊重されることも多いと思われます。
また、他の子供たちへの生前の資金援助についても明記することで、他の子供たちから遺留分の主張をされた場合にも、遺留分割合を軽減できることもあります。
※ 参考資料